overprint

印刷とそれ以上の何かについて(少し電子書籍寄り)。気が向いただけでは更新されません。

INDD 2012 Tokyo (続)

INDDの感想をこっそり書いてたら早々に公式に捕捉されてた…。こうなったら各セッションについてもうちょっと書いてみよう。

B-1 電子書籍オーバービュー

前回も書きましたが、このイベントの参加者層がよくわかっていなかったので、最初のセッションがどういう内容でくるかが楽しみだったのですが、境氏は最新情報を容赦なくガンガン詰め込んできて、かなりのボリュームでした。これで打ちのめされた人もいるんじゃないでしょうか。

この後、前回書いたAmazon PODの紹介があったのですが、前回の補足をすると、「DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門」は発売1ヶ月くらいで1000冊も販売したそうです。デジタル版(PDF&EPUB3)が1890円なのに対し、POD版は2940円と割高なのですが、POD版のほうが売れているということです。内容によって電子書籍とPODで売れ方が変わるのかもしれません*1

DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門 ビッグデータ時代に実現する「枠」から「人」への広告革命 (Next Publishing)

DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門 ビッグデータ時代に実現する「枠」から「人」への広告革命 (Next Publishing)

B-2 EPUB概要、事例

ここからは各フォーマットごとの解説といった感じになります。が、このセッションまでは特にInDesignに関係なく…。

林氏の説明はEPUBの基本的な解説、中でもEPUB2の経緯を踏まえた上でEPUB3の解説をされたのはすごくわかりやすかったです。

高瀬氏は現状のリーディングシステムで組版表現がどの程度対応しているかを調査報告されていて、この資料EPUB制作に関わる人にはかなり有用だと思います。

佐々木氏は実際にEPUB電子書籍(雑誌)を制作する側からの事例を紹介されたのですが、音楽系の場合、楽曲の映像や音声を加えると著作権使用料がかなり負担になってしまうという話が印象的でした。伊集院静「なぎさホテル」電子書籍には井上陽水の楽曲が使われているそうで、その結果販売価格の7%をJASRACに支払っているとのこと。
コスト的にはバカにならない額なので、佐々木氏が制作する音楽雑誌では、場合によってはリハーサル映像を追加しても曲が始まると音を消すといった涙ぐましい手間をかけているそうです。

このセッション3名ともすごく面白い内容だったのですが、45分に詰め込んでしまったため駆け足になっていたのが本当に残念でした。それぞれ別のセッションでじっくり聞きたかったです。

B-3 EPUB制作におけるInDesignの活用

ここから(やっと)InDesignを使った内容に。まずはEPUB。CS6で強化された機能を紹介しながらInDesignを使ったEPUB制作のワークフローを解説されました。

私自身はまだInDesignCS6は使っていないし、EPUB制作にInDesignを使ったことがないので詳細な解説はできませんが、以前のバージョンに比べて機能が増えて便利になったとはいえ、まだまだけっこう大変そうだという印象でした。

とはいえ、これは機能的な問題というよりは、これまでのInDesignアプリケーションの目的も、ユーザーの指向も、リフロー型EPUBとは方向性が違っているためなのではないかと思います。ページサイズを決めてその中に収まるようにレイアウトをして、文字をきっちりと読みやすいように並べていく…ということを前提にしている人たちには、リフローなんて言われてもピンとこない人もいるだろうし、結果的に出来上がったEPUBを見てもアラばかりが目についてしまうのではないでしょうか。

個人的にはInDesignEPUBなら固定レイアウトのみに対応して、リフローの場合はDreamweaverで修正しやすいデータを書き出すことに特化したほうがよいんじゃないかと思います。

B-4 ADPSことはじめ(InDesignの電子雑誌ソリューション)

InDesign電子書籍と言えばADPS…と言える状況ではないのが残念といえば残念ですが*2、そんな状況で樋口氏が提案するのは「ADPSでインタラクティブなプレゼン資料をつくろう」ということでした。

制作会社が作ったプレゼン資料をAcrobat.comにアップして、各営業がiPadにダウンロードしてプレゼンに使用するということですが、この領域は電子書籍とは異なるかもしれないけど確実にニーズはあると思います。しかもこれだとAdobeにお金払う必要がない(笑)

とはいえ、こういう使い方だと現時点ではiBooksAuthorと競合してしまうような気がします。.ibooksファイルは無料コンテンツなら配布自由なので、ADPSが.folioファイルとして単体で配布ができない現状を考えるとiBooksAuthorのほうが便利なのではないでしょうか。逆に更新が多い場合や特定多数向けに配信したい場合は、acrobat.com経由で強制的にアップデートされるのはADPSのほうが便利だと思います。

もっとも最大の問題はこういうニーズとAdobeの戦略が噛み合っていないということに尽きるのですが。今のやり方ではユーザーも増えにくいし、本当にもったいない。

B-5 InDesignのもうひとつの電子書籍ソリューション「MCBook/MCMagazine」

モリサワ電子書籍MCBookと電子雑誌MCMagazineの紹介。これは試しに使ってみるというわけにはいかないので詳しいことはまったく知らなかったのですが。

MCBook自体のアプリケーションがWindows用で、iOSアプリ化はMacでおこなうという、WindowsとMacの両環境が必要というのはなかなかハードルが高い気がしました。

あとMCMagazineの特徴で述べられていた、テキスト部分が別ウインドウでリフロー形式になりモリサワフォントが使えるというのは本当に便利なのか疑問でした。元のテキストと同じフォントならともかく、別のフォントじゃ見づらくなる(元のテキストとのつながりが分かりにくくなる)のではないかと思いますが…。

B-6パネルディスカッション「電子書籍はビジネスになるのか? どうやったらビジネスにできるのか?」

最後はパネルディスカッションですが、これはちょっと盛り上がりに欠けた印象でした。これまでのセッションがフォーマットやツールの話ばかりだったので、その後でビジネスに関するディスカッションというのもちょっと難しかったのかもしれません。*3

「ビジネスになる」と一言で言っても、書籍と雑誌、制作と販売、BtoBかBtoCか、などによっても内容が変わってくるでしょうから、そこをひとまとめにしても議論が深まらないように感じました。
もっとも参加者がどういう内容に関心があるのかわからない状況でディスカッションをするのも難しいだろうとは思いますが。

*1:例えば会社で購入するような本の場合はPODのほうが売れるとか

*2:いちおう最初期から試していたので少なからず期待はしているのです

*3:ほぼ唯一ビジネスに関する話をした佐々木氏が加わっていればまた違ったのかも