電子書籍と日本語組版 - 「W3C技術ノート 日本語組版処理の要件」出版記念
「日本語組版処理の要件 第2版」(Requirements for Japanese Text Layout 以下JLREQ)完成とその書籍版の出版記念として、2012年4月23日に開催されたJAGATセミナーに参加してきました。
以前参加した「EPUB3策定の経緯と電子書籍の今後」と関連した感じで、すごくおもしろかったです。というわけでつたないまとめですがレポートします。
ちなみに当日のプレゼン資料はJAGATのページからダウンロードできますがzipファイルにパスワードかけられているという…。資料くらい公開してもいいと思うんだけど…。
参考:togetter「W3C技術ノート 日本語組版処理の要件」出版記念セミナー まとめ
イースト高瀬拓史氏「日本語組版の要件とEPUB3」
- 2009年11月12日 JEPA EPUB研究会発足
- 2010年1月22日 JEPA IPDFに加盟
- 高瀬氏は当時個人でEPUB仕様書を翻訳してた流れで参加(当時は畑違いのSEだったそうな)
- 2010年1月27日 iPad発表
- 研究会に技術に明るい人がいなかった→2月 村田真氏がEPUB研究会に参加
- 当時は独自の技術仕様を策定する計画だったが、EPUB仕様改定に対して要求仕様をまとめることに→ここでJLREQがすごく役に立った
- 2010年4月1日 EPUB日本語要求仕様→JLREQへのリンクだらけ
- 短期間で仕様をまとめることができたのはJLREQのおかげ
- 出版と無縁だった高瀬氏にとって最良の入門書
村田真氏「W3C日本語組版ノートとEPUB3」
資料:http://www.slideshare.net/MURATAMakoto/w3-cepub3
主要なマイルストーン
- JEPAによる要求仕様がチャーターからリファされた→要求仕様に徹していたため
- 国際化サブグループを設立して村田氏がコーディネーターになった
- 国際化サブグループの要求仕様→ここで入らない要求は議題にされなかった
IDPF国際化サブグループ札幌会議
- 要求仕様をまとめることに徹する
- コーディネーターとして村田氏は相当な恐怖と不安に襲われた→これが仕様を出す最後のチャンスだった
- 参加メンバーのほぼ全員と面識がなかった
- JEPAとMicrosoftだけが支援してくれた
JLREQの果たした役割
- 要求を整理する基準になった→詳細な記述で全員が確認できた
- 台湾はJLREQをすべて見た上で、そこに記述されていない差分のみを主張してきた
- JLREQがなかったら言葉の整理だけで何日かかったかわからない
JLREQの恩恵にあずかる人たち
- 個人的には電子書籍関係のどのプロジェクトよりも日本語にとって最も重要だと思う。不滅の業績だと言える
JLREQの本質的な意義
- 日本語組版を客観視して相対化したこと(=国際化)
- 他者(外国)はどこが同じで、どこが違うのかを認識することができた
石井宏治氏「W3C日本語組版ノートとCSS3」
JLREQの仕様をどこまで実現できているのか
JLREQを基に、それがCSS、EPUBなどの仕様、Word、IE、Webkitなどの実装でどれくらい対応できているのかを細かく紹介されていました。これ資料的にすごく有用だと思うのでぜひ一般公開していただきたいところ。
2012-04-27 追記
石井さんが資料を公開してくださいました。ありがとうございます!
http://www.slideshare.net/kojiishi/w3ccss3-201203-jagat
アンテナハウス石野恵一郎氏「AHFormatterによるJLREQの自動組版」
書籍版の制作を担当したアンテナハウス石野氏による裏話(?)
モリサワ「JLREQと電子書籍における組版処理の実装」
モリサワの紹介と、MCBookでの組版実装のデモンストレーションだったので、細かいレポートは省略。デモンストレーションの時に関係者が「もうちょっとウインドウ小さくしてみて」「うーん、おしい」とか食いついてたのがなんか微笑ましかったです。
パネルディスカッション
最後に関係者によるパネルディスカッションが行われました。
モデレータ鎌田氏:日本語の文化と国際化
《視点》
- 文化について
- culture:社会の中の振る舞いの総体
- Culture:上位文化
- 日本語情報処理について
- 定義と可視化によって適用領域を広げる
- 日本語の国際化について
パネリストより
高瀬氏:
- 自分(日本語組版)を客観化するということはEPUB仕様を通して実感している
- これまで無意識で当たり前だと思っていたことが実はルール化できていなかった
- JLREQには「体裁がよい」という表現がでてくるが、それをなぜ体裁がよいと感じるのか。UX(ユーザーエクスペリエンス)としての読書体験に影響を与えているのか考えるきっかけになるのかも
モリサワ小野氏に対する質問:
小林敏氏:
- 「体裁がよい」とは、誤読されない、読みやすい、見て気持ちよいということ
- 経験の世界→職人仕事
- まず問題を明らかにすることが重要
- 本を読むときも問題を意識しながら(例:行間の問題)
- 新しい問題について考える
アンテナハウス石野氏に代わり会場にいた小林社長:
小林龍生氏:
- UTR#50仕様策定に際して、非日本人のエディタがJLREQを参照して仕様をまとめ、それにたいして日本人を交えて議論をしているという状況はすごいこと
石井氏:
- 自分は気が長いので、海外の優れたソフトで日本語を美しく表示させたいという思いで、長い時間がかかるが仕様策定に関わっている
- もう10年くらいすれば解決できるようにがんばっている
村田氏:
質疑応答
Q;リフローに関して4051は向いていないのをJLREQではうまくまとめている(例:行頭禁則)と思うが、JIS X4051についてどう思うか?
小林敏氏:
- 自分は2回目の改定に主に関わっているだけなので、4051は自身の要望を完全に満たしているわけではない。それをJLREQで反映→例:行末約物
- 4051はわかりづらいので、JLREQでは説明を簡単にして、図版を多めにして見てわかるようにした
- JLREQでは日本語組版において一般的かを自分の経験に沿って盛り込んだ
Q:半角と全角の扱いをどうするのか
小林敏氏:JLREQでは結果としての要件を述べただけで、半角と全角を使い分けるというわけではない
石井氏:UNICODE上は全角・半角は存在しない。現時点では組版エンジンが対応できないのでフォントを変えているにすぎず、本来は処理系が対応すべき。将来に期待。OpenTypeの機能を利用できるようになればよい
小林龍生氏:書籍版のあとがきを読んで欲しい。全角か半角かはフォントの字形の問題
アンテナハウス小林氏:グリフとコードの問題を区別する。半角全角はグリフの問題。JLREQはコードに関しては述べていない
Q:組版上の問題はフォントの実装で解決すれば楽になるのでは?
石井氏:
- 既存のフォントの問題をどう解決するか。フォントを作る方々が意外と組版に詳しくない場合もあり、フォントベンダーにすべて押し付けるのがよいのか?
- 欧文のカーニングペアなどはフォントデザイナーがフォントごとに決めたものだが、日本語の組版仕様とは別のもの
石野氏:欧文でもフォント情報だけではハイフネーションなどは対応できない
小野氏:フォントにどこまで期待するのか
小林龍生氏:既存フォントのシームレスな継承という意味では、フォントだけでの解決は難しい
Q:JLREQはどうやって始まったのか
小林龍生氏:書籍版のあとがきに書いた。2005年のUNICODEカンファレンスで質問に答えられずに、自分が日本語組版をいかに言語化できていないかを思い知った。そこで組版側、実装側のエキスパートが集まって始めた
JLREQはrequirementに徹したのが最大の勝因だと思う
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このブログでも組版系の内容の解説ではしばしば引用しているJLREQですが、まずは作成に関わった関係者の皆さんに感謝と敬意を表したいと思います。私自身も組版に詳しいわけではないですしまだ読みこなしてるわけでもないですが、ここまで詳細かつわかりやすい資料が(Web版なら)無料で読むことができるのはまさに「不滅の業績」だと思います。
その一方でアンテナハウスの小林氏の発言のように、誰もが仕様を読むことができるようになった時点で海外との条件差がなくなりつつあるわけで、それはそれで大変な状況とも言えるのではないかと思います。これを危機ととらえるかチャンスととらえるか(もしくは気にしないか)が後になって大きな差になるのかもしれません。
- 作者: W3C日本語組版タスクフォース
- 出版社/メーカー: 東京電機大学出版局
- 発売日: 2012/04/10
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